―高年齢労働者の増加とこの世代の特性や必要な配慮について
色川 近年、介護の現場や工場で働く高年齢労働者の転倒災害が増えていて、特に60代の女性に多い傾向があります。けがにより今後の人生に影響を及ぼす場合がありますし、休業期間が長期化すると労働生産性も下がります。そのため事業所が率先して、高年齢労働者が安全に働き続けられるための対策を取ることが重要です。
厚労省は「エイジフレンドリーガイドライン」を策定しました。労働衛生の3管理(作業環境管理、作業管理、健康管理)をベースに、事業所がやるべきこと、高年齢労働者自身が取り組むべきことをまとめています。

東北大学大学院医学系研究科 産業医学分野教授
産業医 色川 俊也さん
1964年仙台市出身。産業医科大学医学部卒。東北大学第一内科、石巻市立病院呼吸器科、米国スタンフォード大を経て、2004年から東北大学産業医。10年同大学環境・安全推進センター助教・准教授に就任し、22年より現職。

高橋 格
髙橋 高年齢労働者は、身体能力や体力の低下はありますが、大半の人が長年の経験に基づいた知識を持っているので、職場における問題の解決や若手の指導という役割を果たすことができます。半面、デジタルツールなど使い慣れない技術の習得に抵抗感がある人が多いようです。
年齢を重ねるにつれ、新しい技術を習得するためには時間がかかるようになります。そのため事業所には、映像や写真などを用い、時間をかけて丁寧な教育を行う配慮が必要だと思います。便利な技術を習得することにより、高年齢労働者自身だけではなく、若い世代にとっても働きやすい職場環境になるからです。


―高年齢労働者の労災事故を防ぐには
高橋 介護の現場であれば、介助する際に無理な姿勢を取り続けている中でけがをしてしまう事例が多いです。そのため、スライディングシートやリフトをぜひ活用してほしいと思います。器具を使うことで、労働者や介助される人の体を、けがや腰痛などから守ることができます。
また、製造業や飲食業では、床にこぼれていた油や水で滑って転倒し、けがをしたという報告もあります。産業医が現場を見て職場環境の改善策を提案しますので、必要な対策を講じてもらえればと思います。
色川 職場環境を改善するためには、事業所のトップが「安全のためにこういう取り組みをしましょう」と呼び掛けることで、組織全体で改善に向けた意識が高まると思います。そして高年齢労働者に対しては、それぞれの健康状態に応じた業務内容や勤務時間を設定してほしいです。
また、高年齢労働者は経験が長いゆえに、危険な作業も「慣れているから大丈夫」と思うかもしれません。しかし誰でも年齢を重ねると敏しょう性やバランス感覚が鈍るので、ふとしたことが事故につながります。自身の現状と向き合うことも大切ですね。
―誰もが長く健康で働き続けるための取り組みについて
髙橋 八戸西健診プラザでは、企業に勤める50歳以上の従業員を対象に「働くシニアの健康教室」を提供しています。筋力測定、運動指導、保健指導が主な内容で、理学療法士や保健師が、専門的な視点をもって、一人一人に合わせたアドバイスを行います。
色川 事業所内部だけで運動や健康に対する取り組みをするのは難しいと思いますので、専門家のアドバイスが入るこのような教室はとても良いと思います。今後も健康で長く働くことを意識して、40代後半から50代で対策を始めるのは大切なことです。


高橋 そして持病がある人は定期的な通院の継続、健診で要精検となった人は必ず医療機関を受診することはもちろんですが、健康な人も、体を動かす習慣を取り入れてほしいです。激しい運動である必要はなく、ストレッチやスクワットで十分です。自分にできる運動を、日々継続していくことが大切だと思います。
色川 ストレッチを続けると可動域が広がりますので、腰痛やけが、転倒防止の面からも有効ですね。毎日歩数の目標を決めて歩き、少しずつ距離を伸ばしていくのも良いと思います。
高年齢労働者は今後も増えていきます。事業所の取り組みと自身での健康づくりを通し、誰もが生き生きと長く働き続けられることを願っています。
―本日はお忙しいところ、ありがとうございました。