市民の健康を守る 地域の保険薬局
近年、地域の保険薬局の役割は大きく変わり、処方薬の調剤、服薬指導だけではなく、地域医療の担い手として、医療・介護分野と連携しながら一人一人の患者さんと向き合い、寄り添うことが求められています。地域に密着し、市民の健康を支える保険薬局の役割について、昨年6月に青森県薬剤師会会長に就任した白滝貴子さんと、当院薬剤科科長の伊藤宏彰が意見を交わしました。

―地域の薬局は市民の健康にどう関わっているのですか。

白滝 薬を安心、安全、確実に服用してもらうことで心身の健康を支える、健康の窓口のような存在です。患者さんが高齢になると複数の医療機関を受診するので薬の種類や量が増え、患者さん自身での管理が難しくなります。保険薬局ではお薬手帳を見て、成分の重複や、同時に飲んではいけない薬の組み合わせがないかをチェック。患者さんが処方薬を間違いなく飲めるよう、調剤の一包化などを通して服薬管理のお手伝いをしています。以前は処方箋を基に調剤し、服薬指導をしてお渡しすることが薬局薬剤師の主な業務でしたが、今は患者さんから服薬後の副作用や飲み残しなどについて聞き取り、その方の同意の下で、必要に応じて医療機関と情報共有することも多くなっています。

メディカルコート八戸西病院
薬剤科 科長 伊藤 宏彰
青森県薬剤師会 会長 白滝 貴子さん
1965年むつ市生まれ。 東北薬科大学卒。 実家である弘前市の城西調剤薬局勤務を経て、1999年、同市にABC薬局を設立。 2022年6月より現職。

伊藤 医師の診察時に「薬はきちんと飲んでいる」と答えた患者さんが、実はうまく服薬できていなかった場合、症状や検査値などに改善が見られないことがあります。医師は処方の変更を行うこともありますが、その薬を患者さんがきちんと飲み始めたら副作用発現の可能性が出てきます。そのため薬剤師が、服用状況について患者さんから聞き取った情報を医師と共有することは、副作用を未然に防ぎ、次回受診時の的確な処方につながっていくと思います。

白滝 また、保険薬局は薬や健康に関する業務はもちろん、地域包括支援センターと連携して患者さんの自宅を訪問し、薬を問題なく飲めているか確認することもあります。

―薬の専門家として、医師と患者の間に立って健康をサポートしているのですね。今年、電子処方箋制度が始まります。患者にとってどのようなメリットがありますか。

白滝 医師、歯科医師と、HPKIカード(資格証)を持つ薬剤師が処方箋をオンライン上でやりとりしながら、患者さんの同意があれば、現在および過去の服薬情報と検査値を見ることが可能になります。対応できる医療機関、薬局はまだ限られていますが、薬局が検査値の経過を見ることで、副作用の早期発見などにつながります。

伊藤 電子化により、複数の医療機関で受けた診療の流れを薬剤師も見ることができるので、より一層、安心、安全な調剤ができます。検査値の推移を見て症状の経過を長くフォローすることは薬剤師にとって重要な業務となりますし、患者さんにとっても大きなメリットになります。

―医療機関と保険薬局の連携が進む中、2020年、抗がん剤処方に対する「連携充実加算」が始まりました。

白滝 病院の外来で抗がん剤治療を受けている患者さんに対し、薬局薬剤師が副作用や生活への影響を説明。そしてその後の変化を電話で聞き取り、患者さん同意の下で病院に文書で情報を提供し、医師や病院薬剤師が治療内容の分析・評価を行います。そのサイクルを繰り返し、治療の質と患者さんの生活の質を上げていくことが狙いです。

伊藤 がんは病態によっては死に直結する病気ではなくなりつつあります。抗がん剤が進化した現在、うまく付き合うことで普通の生活も望めます。この制度で病院薬剤師と薬局薬剤師の「薬薬連携」が確立し、服薬管理や療養生活について薬剤師がサポートしていくことで、がん患者さんの生活の質をもっと向上させることができると思います。

白滝 青森市の会営青森第一調剤薬局は、14年に県の予算で無菌製剤室を設置しました。共同利用契約を結んだ市内の薬局薬剤師が、ここで高カロリー輸液や医療用麻薬を調剤し、患者さんの自宅に届けることで在宅療養を後押ししています。八戸にもこのような仕組みはありますか。

伊藤 八戸薬剤師会でも会営休日夜間薬局などで対応していますね。また、無菌製剤室を完備している病院は、以前から抗がん剤無菌調製や指導など院内で対応しています。
薬や制度は進化していますが、昔も今も、薬剤師は処方箋1枚1枚に対して患者さんの健康回復を念じる気持ちで向き合っていることに変わりはありません。その一念を大切にし、患者さんの健康に貢献していきたいです。
 本日はありがとうございました。