コロナ禍での大学教育地域のための研究を
青森県内にも新型コロナウイルスの影響が広がり始めた2020年4月、弘前大学長に福田眞作さんが就任しました。教育現場も大きな変革が迫られた中、同大では知恵を絞り、地域のための研究と人材育成を続けています。コロナ禍での2年間の取り組みと、今後の大学運営について、公益財団法人シルバーリハビリテーション協会の田中理事長が、福田さんに伺いました。

田中 学長就任とほぼ同時に青森県内にも新型コロナウイルスの影響が広がり、大変なスタートでしたね。

福田 就任が決まった頃は、まさかこのような事態になるとは想像もしていませんでした。誰もが経験したことがない状況下で教育研究や地域貢献を担うことになり、重圧を感じたのが正直なところです。

感染症は命に関わることですので、学生、教職員を守るため、しっかりと対策を行うことが第一だと考えました。まず行ったことは、感染リスクが高い対面授業を止め、オンライン授業やメディア授業に切り替えるための準備。授業開始は2週間遅れたものの、学びを止めなかったことは一つの成果だと思います。

田中 学生の皆さんの間でも、かなり混乱が広がったのではないでしょうか。

福田 学生約6千人のうち半数近くが奨学金を受けているのですが、アルバイトが制限されたことで生活に困窮する学生が続出しました。そこで行った代表的な取り組みが「100円昼食・夕食」です。学生と地元商店の双方を支援するためのプレミアム商品券の発行もしました。その費用を大学の資金だけで賄うのは厳しいため、クラウドファンディングなどで寄付を集めたことは、全国に先駆けた取り組みではないかと思います。卒業生をはじめ、全国の多くの皆さんからの支援があったおかげで、金銭的な理由で中退した学生はほぼいませんでした。

田中 学生さんの生活を守り、勉学を止めないため、教職員の皆さんが一丸となって取り組んでいたのですね。地域のために行っている事業は何かありますか?

福田 本学では、県内16自治体と包括連携協定を結び、それぞれが抱える課題の解決に取り組んでいます。八戸市など県南地方にはまだ空白地帯があるので、ぜひ協定を結び、地域活性化のため、共に歩みたいですね。

大学が持つ知的財産を生かした、地元企業との共同研究も活発です。県南地方だと、健康食品として有名な「黒にんにく」の成分研究をしたほか、おいらせ町の企業が、黒にんにくの製造技術を応用して開発した「黒ごぼう」の健康機能性研究を本学で進めて製品化につなげた健康茶「だぶる黒茶」があります。

田中 2021年発表の日本経済新聞社「採用を増やしたい大学ランキング」では、弘大が2位に輝きました。このように地域の課題に取り組む姿勢が、企業からも高く評価されていると感じます。

福田 地域の課題に向き合うことで、視野を広げることができます。その上で、相手の話をよく聞き、自分の考えを簡潔に述べることができれば、社会に出てからもどんどん成長できるはずです。本学で過ごした学生時代、勉学に実直に取り組んだ経験を生かして社会で活躍する卒業生が多いことが、企業側として魅力を感じるのかもしれません。

田中 これからの大学運営については、どのようなビジョンをお持ちですか。

福田 本学は多様な研究を行い、実績を上げてはいるのですが、全国的には知名度が低いのが現状です。もっと弘大の名を広めるためには、まず学生の満足度を高めることが大切。学生の要望を拾い上げ、しっかり対応することを繰り返していきたいです。

今秋、全国の高校生を対象にした「太宰治記念 津軽賞」を始めます。自分の地域の課題を取り上げ、それに対する考えを述べる小論文コンテストです。本学で一番有名な卒業生は太宰治。彼の小説「津軽」は、優れた地域論として読むこともできます。これをきっかけに、たくさんの高校生に本学を知ってもらい、受験してほしいですね。

また、このたび青森南高と高大連携公開講座の協定を結びました。コロナ禍によりメディア授業の環境を整えたことを、ポジティブに捉えた取り組みです。高校側の通信環境さえ整っていればどこの学校ともつなぐことができますので、ぜひ八戸地域の高校とも連携し、将来を担う皆さんと出会いたいと思います。

田中 今後も大学と地域がつながることで、未来への可能性が広がりそうですね。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。