教育と医療の現場から展望する社会を支える理系女子
社会のさまざまな分野での女性の活躍が広がっている中で、理工系の教育を担う八戸高専の女子学生の比率は全国の高専や大学工学部の平均より高い約3割になっています。 同校での女子学生に対するキャリア教育や、女子小中学生が理系分野に興味、関心を持つための取り組み、女性の活躍について、公益財団法人シルバーリハビリテーション協会の田中理事長が同校教授の戸田山みどりさんに伺いました。

田中 近年、科学技術分野においても女性の活躍が目覚ましいですね。八戸高専に通う、未来を担う女子学生へのキャリア教育について教えてください。

戸田山 八戸高専は昨年度から、国の事業である「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」に参加し、女子生徒に対する理系進路の魅力の発信に力を入れています。本校には、以前から女子学生による「ろぼっと娘」というグループがあり、小中学生にプログラミングを教え、実際にミニロボットを動かしてもらう出前講座を手掛けています。女子小中学生と交流して、理系分野の楽しさを伝える目的もありますね。

田中 年齢が近いお姉さんたちの活躍を見て「かっこいいな、理系に進んでみようかな」と、将来を考えるきっかけにもなりますね。そして学生自身も、学んだことを教えることで、さらなる学びにつながるのではないでしょうか。

戸田山 ろぼっと娘に参加している学生は、学ぶ意欲が高くなります。そして、学んだ分野に自信や誇りを持って社会に出ていますね。

田中 八戸高専は女子学生の割合が約3割だと伺いました。皆さん、どのような分野を学んでいるのでしょうか。

戸田山 化学系はもともと女子が多いです。建築デザイン系も人気ですが、意外なことに、土木業界に就職する女子学生が増えています。今の土木業界は女性技術者の育成に熱心です。活躍する先輩女性の姿を見て、自分も進みたいと考えるようですね。また、今年から機械系が「機械医工学コース」に名称が変わり、女子学生も増えています。今は土木も機械も、重い物を持つ力が不要なので、女性も働きやすい業界になりました。

田中 戸田山先生は、小中学生にお薦めの本を紹介する取り組みをしていますね。その中に理系に関する本もあるようですがどのような本を選んでいますか。

戸田山 5年前から、八戸市の事業であるマイブッククーポンの配布に合わせ、小学生に図書を紹介する「本はともだち」という冊子の作成に協力しています。絵本も含めて、子ども向けの面白い理系の本はたくさん出版されています。その中で私は、必ず理系分野で活躍する女性の話を入れるようにしています。これまでに、は虫類の研究にいそしんだロンドン博物館の女性研究員や、日本で初めての女性医師である荻野吟子さんの伝記などを紹介しました。こういった本に触れることをきっかけに、理系分野に興味、関心を持つ女子小中学生がもっと増えればよいと考えています。

田中 専門職が多い理系分野は、結婚や子育て、転職によるステップアップなど、多様なライフスタイルに合わせて長く働くことができる点も良いと思います。

戸田山 本校の女子学生も、将来の職業を意識して理系を選んだと思います。「結婚したら仕事を辞める」と考えている学生はいないようです。医療・介護は資格職なので、さまざまなライフスタイルに対応できますね。

田中 医療・介護は昔と比べて就業環境が大きく改善され、女性が生き生きと、長く働ける場所になっています。今年8月、当協会は、女性の活躍を促進する企業を認定する制度「えるぼし」の3段階目を取得しました。現在、その上の段階でもある「プラチナえるぼし」の認定も目指しています。女性職員が多いため、ライフスタイルに合わせて多様な働き方が選択できるようにしていますし、女性管理職の割合も高いです。業務を効率化し、男女ともに働きやすく、能力を発揮できるように取り組んでいます。今後、女性が活躍できる理想的な社会をつくるためには、どのようなことが必要だとお考えでしょうか。

戸田山 大人が「女の子なんだからそんなことしちゃだめ」などと否定せず、子ども自身が持っている興味や関心を伸ばすサポートをすることが、将来の女性の活躍につながると思います。

田中 私は、女性が個人よりも家庭の生活を重視している傾向がまだあると感じています。女性自身が何をしたいのかを自ら選び、就業と個人の生活を両立していける環境が理想だと考えています。
今日はお忙しいところ、ありがとうございました。